世界一受けたい授業 村上春樹の深い絵本『おおきな木』を読みくらべた感想
2月6日放送の世界一受けたい授業では、
子供に読み聞かせたい絵本が紹介されていました。
その中でも『おおきな木』という絵本が気になったので、
実際に読んでみた感想とまとめを書きたいと思います。
村上春樹が訳した絵本『おおきな木』とは?
番組で「賛否両論の結末」がある絵本と紹介されていた、『おおきな木』。
- 著者:シェル・シルヴァスタイン,Shel Silverstein
- 原題:The Giving Tree
- 出版:1964年(米国)、1973年(フランス)
- 本田錦一郎訳:1970年
- 村上春樹訳:2010年
おおきなりんごの木が少年(のちに成人、老人)に文字通り「与え続ける」物語。
少年が大きくなるにつれて、欲しがるものがどんどん大きくなりますが、
それでも木は、少年の望むものを与え続け、ついには・・・。
果たして本当はどのような気持ちだったのでしょうか。
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読みくらべ:原文、本田訳、村上訳
村上春樹の訳が、比較的最近出たようですね。
その村上春樹訳をとりあえず読んでみるとして、
せっかくなので、本田錦一郎訳も読んでみるとして、
せっかくなので、Silversteinの原文も読んでみましょう。
表紙
表紙は、基本的には文字の違いだけでしょうか。
おっと裏表紙には、原作だけ本人の写真がでっかく載ってるぜ!
文体
本田訳がひらがな「のみ」で書かれているのに対して、
村上訳では漢字も混ざっています。
成人にはひらがな連続は逆に読みづらい・・・笑
訳から受ける印象
個人差はもちろんあると思いますが、具体例を見つつ。
例えば、
原文「and make them into crowns and play king of the forest」本田訳「かんむり こしらえて もりの おうさま きどり。」村上訳「はっぱで かんむりをつくり 森の王さまになりました。」
「◯◯ごっこをした」というニュアンスが本田訳の方がよく出ている気がしました。
もう一つくらい例を。
原文「And the tree was often alone.」本田訳「きは たいてい ひとりぼっち」村上訳「木がひとりぼっちになることがおおくなります。」
例を挙げてはみましたが、
ここでは、個別の訳の巧拙を問題にしたいわけではありません。
「人の心を映す自然の鏡」(村上訳あとがき)である物語を読むときに、
よりすんなりと読めるかどうかには、訳によって随分差があるということが、
自分にとってなかなか面白い発見でした。
扱われるテーマ
比較というわけではありませんが・・・
「すんなり読めなくても、もやもやが残っても構わないから何度も読み返して欲しい」
(村上訳あとがき趣旨)という村上は、
「人の心を本当に打つのは多くの場合、言葉ではうまく説明できないものごとなのです。」(村上訳あとがき)と言っています。
- 与え続ける木は、本当に幸せだったのか?
- 「『与える』行為に、犠牲の行為を見てはならない」(本田訳あとがき)のかどうか?
こうした根本的な問題が、この物語の根底に流れているからこそ、
漕ぎ出して遠くに行きたいという少年に、
おおきな木がついには自分の幹(!)を差し出した後の状況を、
原作者と翻訳者がどう表現するか、そしてそれを読者がどう読み取るか、
三者三様で興味深いのだと思います。
原文「And the tree was happy … but not really.」本田訳「きは それで うれしかった・・・ だけど それは ほんとかな。」村上訳「それで木はしあわせに・・・ なんてなれませんよね。」
(番外編)木に彫られたハートマークの中
こいつです。少年が木に掘ったやつ。
書かれている内容は、
原文「M.E. & T.」「M.E. & Y.L.」本田訳「たろうとき」「たろうとはなこ」(本田)村上訳「ぼくと木」「ぼくとあのこ」(村上)
- M.E.: me (自分)?
- Y.L.: Young Lady(年齢関わらず女性全般に使われる)?
ここは村上の方が「うまい訳なのかな」と思いました。
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まとめ
本田訳あとがきで引用されていた、
エーリッヒ・フロム『愛するということ』の
「愛とは第一に与えることであって、受けることではない」。
この物語では、与える側の「おおきな木」と、受ける側の「少年」がいましたが、
自分はどちらの側にいるのだろうと考えされられました。
実は考えるまでもなく、自分は受ける側の人間であることがこれまで多かったのですが、
「これから与える側としての役割が期待される時、無条件の喜びを果たして感じることができるのだろうか?」
「そもそも喜びを期待するということは、自分が何かを受け取りたいと思っていることと同じではないのか?」
など、もやもやが止まりません。
皆さんはこの絵本を読んで、どんなことを考えましたか?